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きゅうけつき

吸血鬼

江戸川 乱歩

「報知新聞夕刊」1930(昭和5)9月30日~1931(昭和6)3月12日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,554 字 · 381 页

青空文庫

チンドン屋の声は、人形の首をスッポリと冠っていたせいか、やすものの蓄音器みたいに、変に鼻にかかって、殆ど意味が分らぬ程であった。

だが、意味は兎も角、歌の様な節廻しが面白く、その上、異様の風体の珍しさに、茂少年は、門の外へ駈け出して、思わずチンドン屋の側へ寄って行った。

「坊ちゃん、ホラ、このお菓子を差上げます。サァ、召上れ。頬っぺたがちぎれる程、おいしくてたまらないお菓子!」

張りぼての顔を、おどけた調子で振り動かしながら、太鼓の上の見本のお菓子を差出した。

茂少年は、サンタクロースの様に、親切な小父さんだと思って、喜んでそのお菓子を受取ると、別にお腹がすいていた訳ではないが珍らしさに、早速口へ持って行った。

「おいしいでしょ。サア、これからこの小父さんが、太鼓叩いて、笛吹いて、飛び切り面白い歌を歌って聞かせますよ」

ヒューヒュラ、ドンドン。頭でっかちのおどけ面が、肩の上でクルクルクル。友禅メリンスの道化服が、ピョンピョコ、ピョンピョコ、操り人形みたいに、面白おかしく踊り出した。

踊りながら、チンドン屋は、段々畑柳邸の門前を離れて行く。茂少年は、余りの面白さに、つい我を忘れて、まるで夢遊病者みたいに、そのあとからついて行く。