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きゅうけつき
吸血鬼
江戸川 乱歩
「報知新聞夕刊」1930(昭和5)9月30日~1931(昭和6)3月12日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,554 字 · 381 页
何も知らぬ警官達は、お菊の言葉を一笑に附したが、その笑い声の終らぬ内に、またしても、シグマの恐ろしい唸り声が聞えて来た。
「ホラ、また吠えていますわ。アア、怖い。あいつは、まだその暗闇の中に、隠れているのではないのでしょうか」
お菊は、おびえて恒川警部にしがみついた。
「変だね、誰か念の為に、あの辺を検べて見給え」
司法主任が部下の巡査に命じた。そして、一人の巡査が、木立の中へ踏み込んで行こうとした時である。
「ワ、ワ、ワ、ワワワワワ」
と、悲鳴とも何ともつかぬ叫声がして、お菊は恒川氏の胸に顔を埋めてしまった。彼女は再び怪物を見たのだ。
「ア、塀の上だ」
巡査の声に、一同の視線が木立の斜向うの空に集まる。
いた、いた。高いコンクリートの塀の上に、蹲って、じっとこちらを見ている怪物。
半面に月を受けて、ニヤニヤと笑っている顔は、お菊の形容した通り、正しく生きた骸骨だ。
この化物が、小川の下手人だとすれば、被害者の死体を抱ていなければならないのに、怪物は身軽な一人ぽっちだ。では、死体は已にどこかへ隠してしまったのか。
だが、こいつは下手人であろうと、なかろうと、異様な面体といい、夜中他人の邸内をさまよう曲者、取押さえない訳には行かぬ。