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きゅうけつき

吸血鬼

江戸川 乱歩

「報知新聞夕刊」1930(昭和5)9月30日~1931(昭和6)3月12日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,554 字 · 381 页

青空文庫

「ところで、その唇のない男は、一体何者だと思います。あなた方は全くお心当りがないのですか」

明智は、相手の心の奥底に潜んでいるものを、見通している様な調子で尋ねた。

「アア、若しや、あなたもそれをお気づきなすったのではありませんか」

三谷は、ギョッと恐怖の表情を浮べて、明智の目色を読みながらいった。

「実は、まだ誰にも話したことはありませんが、私はある恐ろしい疑いを持っているのです。払のけても、その悪夢の様な疑いが、頭の隅にこびりついていて、離れぬのです」

彼はそこまでいって、ふと口をつぐみ、あたりを見廻した。文代も、隣室に退き、客間には、主客二人切りだ。

「誰も聞いているものはありません。で、あなたの疑いというのは?」

明智が先を促した。

「例えばですね」三谷は何かいいにく相に、「硫酸か何かで、ひどく焼けただれた皮膚が癒着するのには、どれ程の日数がかかりましょう。半月もあれば十分ではないでしょうか」

「そうですね。半月位のものでしょうね」

明智は、何ぜか、面白くてたまらぬといった調子で答えた。

「すると、ある恐ろしい想像が、成立つのです」

三谷は青い顔をして話しつづける。