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きゅうけつき
吸血鬼
江戸川 乱歩
「報知新聞夕刊」1930(昭和5)9月30日~1931(昭和6)3月12日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,554 字 · 381 页
先夜と全く同じことが起った。明智小五郎は、完全に消え失せてしまったのだ。
「三谷さん、三谷さん」
どこかで、呼ぶ声がした。キョロキョロ見廻していると、ポンポンと拍手の合図、それが確に、高いコンクリート塀の向側から響いて来る。
三谷は声のする個所に近づき、塀越しに伸び上る様にして、耳をすましていると、暫くは何も聞えなかったが、やがて、うしろの方で、カタンと妙な物音がした。
塀の向側へ注意を集めていたのに、反対に、うしろの道路に音がしたので、オヤッと思って、振返ると、これはどうだ。そこにヒョッコリ明智が立っているではないか。
三谷は狐につままれた様な顔をした。
ウラウラと晴渡った、昼日中、何とも解釈の出来ない、奇蹟が行われたのだ。日が照っている。明智の影が、黒々と地面に射している。夢でも幻でもないのだ。
「ハハハハハハハ」
明智は笑い出した。
「まだ分りませんか。ナアニ、馬鹿馬鹿しい様なトリックなんです。手品がすばらしければ、すばらしい程、その種は一向あっけないものですよ。あなたは錯覚にかかっているのです。現に見ていながら、気づかないのです」
三谷は眼を落して、何気なく明智の足元を見た。