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じごくのししゃ
地獄の使者
海野 十三
「自警」1947(昭和22)年1月~1948(昭和23)年1月(5、6、11月は欠)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 75,419 字 · 152 页
検事一行が三台の自動車に乗って賑やかに旗田邸を出かけてから五六分たった後のことであった。がらんとした鶴彌の居間の入口に、姿を現わした者があった。
「もしもし。どなたか居ませんか」
やや低目の声で、その人物は呼んだ。それは亀之介だった。誰もそれに返事をする者がなかった。彼は部屋の中を覗きこんだが、室内は乱雑に椅子が放り出されてあるだけで、その上に尻を乗せていた連中の姿は一人もなかった。警戒の警官さえが居ないようであった。親玉が行ってしまったので、これ幸いと鬼の留守に洗濯をやっているのであろうと、彼は思った。
「おやおや。こう散らかされちゃかなわんねえ」
彼はあたりへ気を配りながら、室内へ足を踏み入れた。が、急に彼の行動は敏捷となった。彼はテーブルの傍へ寄った。そしてポケットから白いハンカチーフを出して卓上にひろげた。それから彼はすこし前にかがみこんで、手を灰皿へ伸ばした。彼の両手の指が、灰皿の上の黒ずんだ灰を――紙を焼いたらしい灰であるが、それをそっと持ちあげ、ハンカチーフの上へ移した。灰は案外にしゃちほこばっていて、途中で崩れるようなことはなかった。