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じごくのししゃ

地獄の使者

海野 十三

「自警」1947(昭和22)年1月~1948(昭和23)年1月(5、6、11月は欠)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 75,419 字 · 152 页

青空文庫

亀之介は一礼したが、すぐに椅子には掛けず、すたすたと足早にそこを離れて向うへ行った。どうしたのかと思っていると、彼は飾棚の上から、同型の真鍮製の積み重ねてある古風な灰皿の一つを取り、それを持って引返して来た。そして検事の前の席についたが、持って来た灰皿は窓枠のところに置いた。そこは彼の席から手を伸ばせば十分に届くところだった。

部屋の隅っこには、さっき鼠の屍骸を持って出て警官へ何かを頼んでいた帆村荘六が最早戻って来て、ゆっくりと煙草をくゆらしていたが、彼はこのとき亀之介を細い目で透かして見ながら、鼻を低く長く鳴らした。

(きちんとした男らしい。死んだ彼の兄の方はだらしない人物らしいが……)

帆村は心の中で思ったが、果してそれは当っているかどうか。――

「御実兄の異変を、いつ知られましたかな」

検事は、亀之介へ訊いた。

「ほう。そのことですが……」と亀之介は葉巻の煙が目にしみるか瞬きをして「雇人たちはずいぶん早くから私の室の戸の外まで来てそれを知らせたそうですが、実のところ私はそれを夢心地に聞いていまして――昨夜は呑みすぎましてな――本当にはっきりとそのことを知って目が覚めたのは、今から一時間ほど前なんです。