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じょうちゅうのしも

城中の霜

山本 周五郎

「現代」1940(昭和15)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,828 字 · 26 页

青空文庫

金五は、左内を柔弱者だと罵った。生白い面をして、女の腐ったような奴だと、罵詈悪口した末に、喜多の香苗と猥らな仲だと云った。香苗はそれを判きりと聞いた、言葉の意味は本当には分らなかったが、なにかしらん罪深い、禁断の帷の奥をいきなりあけて見せられたような、胸苦しい羞恥と忿りに身の震えるのを覚えた。

左内は静かな、然し鋭い声で、――それは嘘だ。と云った。――根も葉もないことを云うものではない、自分は男だからよいが、女には取返しのつかぬことになる、それだけは取消せ。――取消す必要はない。金五の声より疾く左内は刀を抜いた。不意を衝かれた少年たちは四方へ逃げだしたが、左内は切尖を付けて金五を動かさなかった。――金五、いまの言葉を取消せ。声は矢張り静かだが、その眼は烈火のように相手の面上に食いついていた。

香苗は今でもその時の感動を忘れることが出来ない。日頃は女のように弱々しく、曾ていちども怒った例のない左内が、香苗のために刀を抜いて立ち向ったのだ。その必死の意気に呑まれて、金五はその暴言を取消したが、香苗にとってはそんなことは問題ではなかった。自分の名誉のために刀を以て立ち向って呉れた彼の断乎たる態度、それだけでどんな恥辱も拭い去られるような気がしたのである。