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じょうちゅうのしも

城中の霜

山本 周五郎

「現代」1940(昭和15)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,828 字 · 26 页

青空文庫

六

藩邸内にある喜多の家には、すでに十数人の若者たちが来て待受けていた。そのなかには蒔田金五もいた。

「……どうした、首尾よくいったか」

「死躰を渡したか」

勘一郎の顔を見ると、待っていた人々は一斉に膝を乗出した。

「遺骸は正に受取った」勘一郎は凍えた手を膝に置いて、「役人たちは礼を尽した応待だった、なかにも囚獄奉行の石出帯刀は、我々を招じて左内の在獄中の起居から最期の模様まで精しく語って呉れた」

「では左内の待遇も悪くはなかったのだな」

「お上から差遣わされた新しい衣服で斬られている、獄制創まって以来の異例だそうだ、左内は辞世の詩を詠み、笑って刑を受けたと感じいっておった」

「それは、それでいい、然し」と円鍔藤之進が割込んで云った、「然し、いちど遠島と決ったものを、どうして急に死罪と改め、そのうえ半日の猶予もなく斬ったのだ、その理由はなんだ」

六

「そんなことは分りきっている」金五が叩きつけるように云った、「建儲問題に連坐した者はみんなやっつけようというんだ、井伊掃部の指図に違いない、尾張の慶勝公、水戸の斉昭公、御三家でさえ謹慎隠居を命ぜられたくらいではないか、左内を斬ったのは福井藩に対する威嚇だ」