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じょうちゅうのしも

城中の霜

山本 周五郎

「現代」1940(昭和15)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,828 字 · 26 页

青空文庫

七

そう云うのだ……我々はそれを聞いたので、直ぐ其奴を引摺って来て糾問した、すると其奴は急いで、酔ったまぎれの失言だとごまかしたが、問詰めするうちに事実を吐いたのだ」

「……その事実とは」みんなかたずをのんだ。

七

「左内は刑場へ出て、定めの席へ就いた」甚十郎が口重く続けた、「太刀取りは某藩の士だった、それがうしろへ廻って大剣をあげ、よいかと声を掛けたとき、左内は振返って、

――暫く、暫く待て。

と云った。そして刀を控えさせると、少し座をずらせ、藩邸の方を拝してから、両手で面を掩い、やや暫く声を忍んで泣いた、やや暫く、それから坐り直して、

――もうよい、斬れ。

と云ったそうだ、是が事実だ」

「事実だということがどうして分る」

「慥かめて来た、太刀取りをした某藩の士、藩の名も姓名も約束だから云えぬ、その男に会って慥かめて来た、いまの事実に些かも相違なかったのだ」

誰も言葉をむ者はなかった。甚十郎はぴくぴくと眉を動かしながら、「石出帯刀が我々に語った話は武士の情だ、下役人の云うところに依ると、そこに立合った者全部に左内の泣いたことを口外するなと申渡したそうだ、みんな左内を惜しんで呉れた人たちらしい、町奉行もそうだと聞く、それなのに当の左内は」