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じょうちゅうのしも

城中の霜

山本 周五郎

「現代」1940(昭和15)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,828 字 · 26 页

青空文庫

二

「あれもか、あれも……従容として……」直弼が相手の言葉を遮って、まるで憎悪に堪えぬもののように低く呟いた、「莞爾と笑い……辞世の詩を詠んでか、あの男もそんな……そのような」

「まことに見事な死にざまでございました」

穆清はそう云って退った。直弼の顔に表われた侮蔑の表情は、なかなか消えなかった。彼はなんども口のなかで……莞爾と笑い、従容として、帰するが如く。などと呟きながら、極めて不愉快そうに、その大きな唇をひき歪めた。それから再び手をあげて、襟首の面皰を揉み出そうとした。指に力を籠め、歯を食いしばりながら……太い眉毛がきりきりと顰んだ。

二

因幡守穆清が役所へ退って来ると、囚獄奉行の石出直胤が待っていた。

「……御首尾如何でございました」

「事実は申せなかった」穆清は吐き出すように云った、「……橋本左内は従容として辞世の詩を詠み、静かに笑って死んだと申した、そのもともその心得で、みなの者に申し含めて貰いたい」

「自分もそのように思いまして、取敢えず一同の口を止めて置きましたが」

「あれほどの人物を、未練者と呼ばせたくないからな、然し不審なのは大老の御ようすだ、とんとげせぬことがある」