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じょうちゅうのしも
城中の霜
山本 周五郎
「現代」1940(昭和15)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,828 字 · 26 页
三
「橋本左内にゆかりのある者だと申します」
三
左内ゆかりの者だと聞いて、穆清は直ぐ客間へ通らせ、自分も支度を改めて出ていった。客は二十ほどの娘だった。髪かたちで武家の者だということは直ぐ分る、やや浅黒い頬の凛と緊った、紅をさしたように紅い小さな唇許に、控えめながら勝気らしさの表われている、どこか寂しい顔だちである……彼女は福井藩士、喜多勘蔵の二女香苗と名乗った。
「それで、お訪ねの用件は」
「まことに不躾なお願いでございますが、このたび左内が遠島の御裁きを改められ、死罪となりましたに就き、どのような仔細がございましたものか、また……死に際のことなどお伺い申したいと存じまして」
「どうしてそれをこちらへ訊きにまいったのか」
「こなたさまならばお明かし下さるであろうと、さる方より教えられましたので」
穆清は二三の人物を空に描いたが、おそらく石出直胤であろうと思った。
「して、おもとは左内どのとは」
「また従兄妹に当っております」
そう云ってふと伏せた眼許に、陽炎のようなものがはしるのを穆清は見た。それはきわめて微かな、眼に見えたというより、直感に触れた程度のものではあったけれど、穆清はふと胸をしめつけられるように思った。