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じょうちゅうのしも
城中の霜
山本 周五郎
「現代」1940(昭和15)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,828 字 · 26 页
四
……冬の短い日はもう昏れて、街にはすっかり灯が点いていた。今夜もまた凍てるのであろう、風もないのに空気は冷えきって、足元から這上る寒気は骨までしみ徹るかと思われる。香苗は両袖で確りと胸を押えながら歩いた。ふところへ入れて来た辞世の詩に籠っている左内の心を、その寒さから護ろうとでもするように、……辻へ出ると灯の明るい商家の街になった。往来の人々が寒さに身を縮めながら、追われるように前後へすれちがった。――どうしたのかしら、この感じは。どうしてもぴったりとしない気持が、いつまでも香苗の心に棘を残していた。――あんなに精しく聞いたのに、少しも左内さまの御最期という感じがしない、左内さまがどんな人であるかということは、香苗がいちばんよく知っていた筈なのに。彼女は腑におちない気持で幾たびもそう呟いた。
四
香苗は左内と三つ違いだった。二人とも福井の国許で生れ、また従兄妹という縁もあったし、屋敷も近かったので、幼い頃からよく往来して知合っていた。左内は色の白い、眉の秀でた小柄の美少年で、口数の寡い、極めて温和な、どちらかというと少女のような優しい性質をもっていた。