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じょうちゅうのしも
城中の霜
山本 周五郎
「現代」1940(昭和15)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,828 字 · 26 页
「なにごとか、ございましたか」
「静かに笑って死んだと申上げた時、非常に不愉快そうな顔をされて、あれも従容として死んだか、あれも……二度まで独言のように呟かれた、辞世を詠み帰するが如く死んだということが、此の上もなく機嫌に触ったような口ぶりであった」
「よもや事実が御耳に入っていたのではございますまいな」
「或いはそうかも知れぬ、が、なんと云ったらいいだろうか、とにかくあの不機嫌さは別のものだ、まるで解せぬ」
直胤は待っていた用を切りだした。
「実は……左内の遺骸を引取りにまいっている者があるのですが」
「引渡して宜しかろう、何者だ」
「石原甚十郎と申す者の他に三名、越前家ゆかりの者と申しますが」
直胤は愴惶と退出した。
穆清はその日は私宅に帰る番に当っていたので、午後三時が過ぎると駕で役所を出た。彼は橋本左内を助けようとして、遂に出来なかったことが、自分の責任のように思えてならなかった……吉田松陰も小林民部も、頼三樹三郎も梅田雲浜も、その他多くの志士たちは直接、幕政に反抗して矢表に立つ者だった。けれど橋本左内は彼等とは違っていた。彼は尊王論者ではあったが、同時に佐幕と開国を主張としていた。