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じょうちゅうのしも

城中の霜

山本 周五郎

「現代」1940(昭和15)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,828 字 · 26 页

青空文庫

穆清はそれを覘ったのだが遂にその苦策も無駄だったのである。その苦心が無駄だった許りでなく、彼は刑場でもっと堪らないものを見なければならなかった。それは武士として、彼が今日まで経験して来たどんな場合よりも苦々しく、且つ痛ましい光景であった……痛ましく感じ、苦々しいと思ったのは穆清だけではない。その刑場に立合った者のなかには寧ろ驚愕し、明らかに軽侮の舌打をした者もあった。そのありさまが今でも歴ありと見える。刑場の白々とした広さと、断頭の刃の下の左内の姿が、そして役人たちの動揺した表情が。――未練な! 穆清は左内の胸中を察し得るだけに、それを痛ましいと思う同じ気持で立腹を感じた。

其処には囚獄奉行をはじめ卑しい獄卒まで見ているのだ。介錯の者は首斬り役人ではなく特に某藩の士を頼んである。たとえばどのように無念な死であろうと、左内が武士なら覚悟すべき場合である。嘘にも静かに武士らしく死すべき時であろう。……名こそ惜しけれ、武士の値打はその死に際を見なくては分らぬ。穆清は駕の中で繰り返してそれを考えていた。私邸へ着いたのはもう黄昏であった。……十日に一度の帰邸なので、妻子も揃って出迎えたが、寛ぐ暇もなく家士が訪客を知らせて来た。