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よるのこうず
夜の構図
織田 作之助
「婦人画報」1946(昭和21)年5月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 62,068 字 · 125 页
「不良少女みたいな声を出したな」
「あたし不良よ」
「誘惑された事ある……?」
「ないわ。絶対よ。あたし、人よりか手や足が小さいのよ。子供みたいな体なの。誰も誘惑しないわ」
「僕が誘惑したらどうする……?」
「誘惑……? どうするの……?」
「例えば、ベーゼする」
「出来るの……?」
「出来る! したらどうする!」
「泣き出すわ!」
露悪家じみてみたり、不良めいたり、子供っぽく見えたり、信吉にはもう冴子が判らなかった。
二時五分前――
信吉はいきなり言った。
「『赤と黒』の主人公はね、二時に女の手を握ろうと思うと、それを自分の義務と思ってしまうんだ。二時になって手が握れなければ、脳味噌をピストルで打ち抜こうと思う位自分に課した義務に忠実な男なんだ。――いい……? 僕もその主人公通り、二時になったら君にベーゼする。あと三分……」
信吉はじっと冴子を見つめた。
悪趣味というより、まるでメチャクチャだった。まるで破れかぶれの宣言みたようだった。が、露悪家を装うことによって、信吉はキッカケを与えようとしていた。
「本気……?」
冴子は微笑しかけたが、青ざめた顔にうかんだ信吉のキッとした表情を感ずると、あわてて視線を外らし、みるみる固い姿勢になって行った。