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よるのこうず

夜の構図

織田 作之助

「婦人画報」1946(昭和21)年5月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 62,068 字 · 125 页

青空文庫

冴子は唇を拭こうとした。途端に手がブルブルとふるえて、拭けなかった。手だけではない。体中がガタガタとふるえていた。歯がカチカチと鳴った。

ショックだろうか、恐怖だろうか、昂奮だろうか、冴子にはわけが判らなかったが何か病的な発作が起ったように、ガタガタふるえていた。

信吉はどきんとした。接吻のあとでそんなにふるえている女を見るのははじめてだったから、なぜふるえているのか、信吉にも判らなかったが、そのふるえ方は涙以上に信吉にとっては生々しい感覚だった。

「どうしたの……?」

と、信吉は優しく肩を抱いて、ベッドの端に掛けさせた。

「――どうして、ふるえてるの……」

「判らないわ。あたし、こんなことはじめてなの」

「ふるえるのが……?」

接吻はたびたびしたが、接吻のあとでふるえるのは、はじめてか――という意味で信吉はきいたのだが、実に許しがたい質問だ。

冴子にとっては、接吻は生れてはじめての経験だったのだ。

「寒いの……?」

信吉は出任せの口を利いていた。寒いどころか、真夏だったのだ。

「ううん」

と、冴子は勿論首を振った。

信吉はどうしていいか判らなかった。どうすれば、冴子のふるえがとまるのか。