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よるのこうず

夜の構図

織田 作之助

「婦人画報」1946(昭和21)年5月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 62,068 字 · 125 页

青空文庫

何かエアーポケットのような感じでありそれがふと痛々しい感じのような気がするのは、結局自分が冴子にとって最初に接吻を与えたという罪にも似た意識のせいだろうか。

「恋愛もしたことないの……?」

「ええ」

「どうして……?」

「そうねえ」

と、冴子は真面目に考えて、

「――好きな人がなかったのね。いい人だと思ったことはそりゃあったわ。好感も持ったわ。でも、それ以上にはピンと感じなかったわ」

「好きになったのは……」

と、さすがにちょっと口ごもって、

「――僕だけ……?」

冴子は素直にうなずいた。「しょってるわねえ」と言えれば、幸福だったが、しかし、もうその幸福は失われてしまったが、冴子は、それが失われたことには気づかなかった。いや、可哀相に、自分は今幸福だと思いこんでいた。すくなくとも、そう言いきかせていた。

なぜなら、

「人を愛することが出来るのは、幸福だ」

という言葉を知っていたからだ。しかし、どんな男を、今、冴子は好きになっているのか、知っているのだろうか。

こんな男だ。――

「僕のどこが好きなの……?」

接吻したあとで、そんな言葉の遊戯をたのしんでいる男だ。そして、その返答として、