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よるのこうず

夜の構図

織田 作之助

「婦人画報」1946(昭和21)年5月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 62,068 字 · 125 页

青空文庫

「丁度です」

二十八だが、嘗められるので、二つ年上に言った。

「三十……? これからですな。どしどし書いて下さいよ。脚本を書く人が少くってね。――映画の方はどうです、興味ありますか」

「興味って言うと……?」

「撮影所でね、あなたの脚本を読んで、問題にしてましたよ。シナリオを頼むとか言ってましたが……」

信吉は赧くなった。昨日まで無名であった自分が、そんなに問題にされているのが、不思議であった。ふと寂しくなった。しかし何故寂しくなるのだろう。有頂天になるべきところではなかったか。

「僕は駄目です。僕は時局物が書けませんから……」

「いや、生じっか時局物でない方がいい。やっぱり柔いものが喜ばれるのでね。情報局推薦なんて肩書がつくと、かえって受けませんね。こんどのあなたの脚本も、あれだけでは色気がないので、一幕だけラヴシーンを追加しましたよ」

「え……?」

信吉は毛虫を噛んだような顔をした。

「この幕がそうです。まア、見ていて下さい」

「…………」

信吉はむっとして、やがてはじまったその幕の稽古を見ていたが、みるみるうちに真蒼になってしまった。

なるほど、その幕は信吉が書いたものではなく、後からつけ加えたものだった。