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よるのこうず
夜の構図
織田 作之助
「婦人画報」1946(昭和21)年5月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 62,068 字 · 125 页
「じゃ、届けてあげますわ、仕方がない」
「何時頃……?」
「さア、お午を食べて出るから、一時かな」
一寸男の子のような口を利いた。それが信吉を自信づけた。
「何でしたら、お午を食べないで、来て下さい。もっとも、マッチであなたを餓死させてはいけないから、あんまり美味くないけど、ホテルの昼食でも御馳走しますよ。つまり、マッチの礼だ」
信吉は早口に、笑いながら言った。
「その代り、マッチは一箱で済まないっていうんでしょう。あんまり沢山持ち出すと、おふくろに叱られちゃうけど……うふふ……」
信吉も何となく空虚に笑い、それで約束が出来たのも同様だった。
丁度そこへ電車が来た。
「ありがとう。じゃ、明日待ってます。ロビイで……。何時……?」
「正午でいい……?」
「ええ。じゃ、明日正午」
信吉は電車に乗った。
電車が動き出すと、冴子は線路を横切って渋谷行の停留所の方へ歩いて行ったが、その姿はすぐ見えなくなった。レインコートを羽織っているせいか、随分小柄に見えるその姿は、なぜか信吉の瞼にいつまでも残った。そしてそれがふと信吉の気を滅入らせた。
電車は空いていたが、座席に掛けようとしなかったのは、余りの成功にそわそわしていたというよりも、むしろ気が滅入っているためではなかったか。