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よるのこうず
夜の構図
織田 作之助
「婦人画報」1946(昭和21)年5月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 62,068 字 · 125 页
石橋を敲いて渡る主義、処世術常識、プチブルの自己保存の本能、貯蓄、無駄を怖れる精神、――すべて軽蔑していた。信吉の意に適っているのは、野放図、破天荒、横紙破り、常規を逸したもの、破目を外したもの、尻尾を出すこと――いわゆる反俗精神の裏づけあるものに限られていた。
だから、信吉の願いとは、つねに世間的な出世にはなく、異色ある人物になり切ることであった。そして、そのように振舞って来たつもりだが、信吉自身の異色ぶりなぞ、もはや蜂谷重吉の前では、けちくさい存在でしかなかった。
信吉は素直にきいた。
「どうして、こんな広告を出されるんですか」
すると、蜂谷はぶっ切ら棒に、
「どうして……? あなたはどうしてそんな質問をするんですか。そんな質問をする人に、その理由を説明してみても判りませんよ」
と言うと、いきなり起ち上って、
「午後八時、三三三号室ですよ」
だめを押すと、すっと玄関の方へ出て行ってしまった。
「よし、午後八時、三三三号室だな。今日こそはあの男に出しぬかれないぞ」
そう呟いた時、スーツケースを持った伊都子がエレヴェーターから降りて来た。伯父や許嫁が一緒だった。