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よるのこうず
夜の構図
織田 作之助
「婦人画報」1946(昭和21)年5月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 62,068 字 · 125 页
「この男は宗教的な感情を少しも持っていないばかりか、人が生きて行く理想への努力というものを少しも払おうとしない、真実がない」
と、一言の下で片づけてしまうのは容易だが、しかし、人間の交渉に缺くべからざる理解というものは、このような公式的批評からは生れて来ない。
いかなる人間でも、一言で片づけようと思えば、片づくものだが、しかしまた、いかなる人間も、一言では片づかないものを持っている。
人間を円にたとえてみれば、われわれはたいていの場合、この円を多角形に歪めて考えることが多い。多角形の辺を増せば円に近づくごとく、観念的な言葉の辺を増すことによって、その人間に迫ることが出来ると、一応考えられるが、しかし、多角形が円になるのは幾何学の夢に過ぎない。円い玉子も切りようで四角いとはいうもののやはり切れ端が残るのである。われわれが一人の人間に下したいかなる解釈も、あたかもすべての多角形が円の中にすっぽりとはまるように、その人間に当てはまるのだが、しかし、円はつねに多角形より面積が広いのである。いわば、切れッ端だけ、広いのだ。
たとえば冴子の楽屋を出た時、信吉の顔に翳った憂愁の表情も、この切れッ端なのだ。