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よるのこうず

夜の構図

織田 作之助

「婦人画報」1946(昭和21)年5月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 62,068 字 · 125 页

青空文庫

信吉はがっかりした。

「八時には必ずお伺いします」

という伝言だった。昼間、ホテルを出る時書いて、受付へ渡しておいたのである。

なぜ、そんな伝言を書いたのか――と、信吉は後悔した。だいいち、きざっぽいし、それに、そんな伝言を渡して置きながら、八時におくれてしまった。気の弱い信吉は一方的な約束にせよ、それを破ってしまったということが、一寸気になった。

女を平気で誘惑するくせに、この律義さは一体どうしたことであろうか。

三三三号室を八時に訪問するしないは、信吉の自由だった。いや、好奇心は無論あったにせよ、はっきり新内語りの細君で、しかも蜂谷重吉の情婦だと判った女の部屋へ押しかけることは、もはや神経的に出来なかった。が、約束は約束だ。

「部屋へ戻って、三三三号室へ電話してみょう」

信吉はエレヴェーターに乗りながら、ふとそう思った。

四階の自分の部屋へ戻ると、信吉は例によって、まず煙草に火をつけた。そして煙を吐き出しながら、三三三号室に電話のベルが鳴った時のことを想像すると、思いがけなく、いやらしい想像をそそられた。

三三三号室には無論女がいる。新内語りの細君が。