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よるのこうず
夜の構図
織田 作之助
「婦人画報」1946(昭和21)年5月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 62,068 字 · 125 页
あたし、すっかり本当のこと話してやったのよ。怒ったわよ」
「そりゃ怒るだろう」
と、信吉は軽薄に言った。
「でも、しまいには、過ぎ去ったことは仕方がない、僕は許します――と言ったわ。あたし、その言葉をきいて、むかッとしたの。許してなんかほしくないわ、だいいちまだ過ぎ去ってないわよ、これからあの方に会いに行きます――と、こう言って、静岡でひとりで降りてしまったの」
「で、東京へ引き返して来たの……?」
と、信吉は判り切ったことを、きいた。
「ええ――」
半泣きの顔でうなずいたが、すぐ媚をふくんだ眼で信吉の顔を覗きながら、
「――いけなかった……?」
「いや、いけなかないさ」
と、信吉は煙草に火をつけようとして、マッチを擦った途端、そうだ、このマッチはあの女がくれたのだっけ――と、冴子のことを想い出した。
明日冴子が来る。伊都子がいる。これは困ったことだと、信吉は眉をひそめた。何たるエゴイズム!
「いやな許嫁に処女を捧げるよりは……」
と、昨日伊都子は信吉に身を任せた。知り合って――というより、はじめて会うて一時間のちには、もう信吉の胸に身を投げていた。これは恋とは言えぬだろう。