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しっちょうき
失蝶記
山本 周五郎
「別冊文藝春秋」文藝春秋新社、1959(昭和34)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,072 字 · 44 页
手記を続けるに当って、密勅をめぐる家中の論争は省略します。そこにこんどの出来事の原因があるのですが、要約すれば勤王か佐幕かということで、あらましのことはあなたにもわかっていると思うからです。
私と杉永とは初めから王政復古、開国の方向に動いていました。そうして吉川十兵衛、梓久也、田上安之助らのほか、二十余人の同志を集め、上方と連絡をとって、全藩の意見を纒めるために、手分けをして裏面工作をやっていたのです。――なぜ裏面工作をしなければならなかったかというと、仙台藩がつねに警戒の眼をそらさず、重職がたに絶えず圧力をかけていましたし、同時にまた、法隆和尚に煽動された佐幕派の者たちにも、よほど用心しなければならなかったからです。――こういう大事なときに、私は奇禍のため聴力を失い、同志の人たちから脱落してしまいました。たぶんご存じでしょう、一昨年の二月、磯部の砂浜で大砲の試射をしました。それまで藩には張抜きの砲しかなかったのだが、常陸の某公から初めて鋳鉄の大砲を譲り受けた。これはわれわれ同志の奔走によるもので、譲り受けたことは極秘であり、試射もまた極秘に行われました。