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しっちょうき

失蝶記

山本 周五郎

「別冊文藝春秋」文藝春秋新社、1959(昭和34)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,072 字 · 44 页

青空文庫

杉永からこれらの事情を聞くたびに、私はまた自分の耳を呪いました。事を起こす時が迫っているのに、自分は脱落者として、ただ傍観していなければならない。前生にどんな罪があったのだろうか、などと思い、磯部の浜のときの、とびだしていった無分別さ、しかもそれが徒労だったことに、改めて自分を罵り、救いようのない後悔に身をさいなまれる思いをしました。

三月下旬だったでしょうか、杉永が訪ねて来て、同志の者が七人、藩吏に捕われた、ということを告げました。田上安之助の組で、会合はいつもどおり極秘におこなわれた。その場所がどうして探知されたかわからない、七人は城中に監禁されているらしい、ということでした。

「明らかに真壁のしごとだ」と杉永は云いました、「形勢が悪転で真壁が動きだしたに相違ない、領境には仙台の兵が詰めかけて来たし、このままではわれわれは潰されてしまうぞ」

こう書いて示す文字も、いつになく筆が走っていて、ことの重大さをよくあらわしているようにみえました。

「やはり真壁は除かなければならない」と彼は続けました、「あのときやっておくべきだった、こんどこそやらなければならないと思う」