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しっちょうき
失蝶記
山本 周五郎
「別冊文藝春秋」文藝春秋新社、1959(昭和34)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,072 字 · 44 页
かれらは部屋へあがり、なにか捜しているようすだったが、一人が刀を持って土間へおりて来た。
「大丈夫ここにいる」と一人が云った、「この刀があるから慥かだ」
「まる腰ででかけたんだな」
「暢びりと山歩きか」とべつの一人が云った、「風雅なことです」
他の一人が戸口へゆき、手を振りながらなにか叫んだ。すると答える声がして、まもなく五人の若侍がはいって来、狭い土間はかれらでいっぱいになった。
「朝めしの支度をしているから、まもなく帰って来るだろう、どうする」
「刀を取りあげればこっちのものだ、ここでやるか」
「いや、大事をとるほうがいい、二人は中にいてその娘を動かすな、ほかの者は外に隠れて帰りを待とう」
「梓は用心ぶかいな」
「谷川主計には、どんなに用心してもしすぎるということはないんだ」
「梓は用心ぶかいよ」
そんな問答をしながら、二人をおすえの側に残して、他の八人は戸外へ出ていった。残った二人は土間の隅へさがり、一人は刀を抜いて、おすえに見せた。
「騒ぐとこれだぞ」とその若侍が云った、「いつものとおりやっていろ、谷川が帰って来てもへんなそぶりをするなよ」
そのとき戸外で叫び声がした。