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かげをふまれたおんな

影を踏まれた女

岡本 綺堂

「講談倶楽部」1925(大正14年)9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,608 字 · 23 页

青空文庫

家じゅうに灯をとぼして何かまだ笑いさざめいている店もあった。その家々の屋根の上には、雪が降ったかと思うように月のひかりが白く照りわたっていた。その月をあおいで、要次郎は夜の寒さが身にしみるように肩をすくめた。

「風はないが、なかなか寒い。」

「寒うござんすね。」

「おせきちゃん、御覧よ。月がよく冴えている。」

要次郎に言われて、おせきも思わず振り仰ぐと、むこう側の屋根の物干の上に一輪の冬の月は、冷たい鏡のように冴えていた。

「いいお月さまねえ。」

とは言ったが、たちまちに一種の不安がおせきの胸に湧いて来た。今夜は十二月十三日で、月のあることは判り切っているのであったが、今までは何かごたごたしていたのと、要次郎と一緒にあるいているのとで、おせきはそれを忘れていたのである、明かるい月――それと反対におせきの心は暗くなった。急に怖ろしいものを見せられたように、おせきは慌てて顔をそむけて俯向くと、今度は地に映る二人の影がありありと見えた。

それと同時に、要次郎も思い出したように言った。

「おせきちゃんは月夜の晩には表へ出ないんだってね。」

おせきは黙っていると、要次郎は笑い出した。