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おそろしきつや

恐しき通夜

海野 十三

「新青年」1931(昭和6)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,092 字 · 30 页

青空文庫

何とかして二人を引離す頓智はないものかと考えたが、咄嗟のこととて巧い術策が浮かんでこない。

望遠鏡を目にあてて、よくよく眺めてみると、歯を剥いて追っかけている方は、熊内中尉だった。追いかけられているのは竹花中尉、中尉の顔が、丁度雲間から現われた斜陽を真正面に浴びて、儂のレンズの底にハッキリと映じたが、彼は飛行帽も眼鏡もかなぐり捨てて、片手を空しく顔前にうち振り、彼の顔はキリストの前に立った罪人のように、百の憐愍を請うているのだった。『おれが悪かった! 何でも後から相談に応じるから、おれを死なせないで呉れ給え』と、そんな風に見える真青の顔だった。そして尚も、助かろうとして逃げた。竹花中尉には、熊内中尉の恐ろしい決心のほどが、ハッキリと判るのだった。

実は二人の間には、こんな訳があるのだった。二人は元々K県出の、たいへん仲の善い僚友だったが、あの事件の時から一年程前に、儂も識っているがAという若い女が、二人の間近かに現われてからというものは、急に二人は背いて行った。そのAという女は、非常に眼と唇とのうつくしい、そして色がぬけるように白くて、真紅な帯や、真紅な模様の羽織なんかがよく似合う少女だった。