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おそろしきつや

恐しき通夜

海野 十三

「新青年」1931(昭和6)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,092 字 · 30 页

青空文庫

笑うと、ちょいと開いた唇の間から、真白な糸切り歯がニッと出てくるのが、また何とも云えない程可愛らしく見えた。そのAさんという少女に、二人が同時に惚れこんだのも、全く無理のないことだった。しかしお互に、相手の気持を知ると、二人は二十幾年の友情も、プッツリ忘れてしまった。彼等は、表面は何喰わぬ顔で勤務をしていながら、内心では蛇と狼とのように睨み合っていたのだ。彼等は悪竦な手段で、お互を陥れ合った。自分の血で、相手の骨を洗った。

その結果、Aという女は、遂に竹花中尉の方へ傾いてゆき結納までとりかわされ、この演習が済むと、直ちに水交社で婚礼が挙げられることにまで、事がきまっていたのだった。あわれ、恋に敗れた熊内中尉は、悪魔におのが良心を啄むに委せた。そこで中尉の恐ろしい復讐が計画されたのだった。

『竹花にあの女を与えてなるものか。また、自分を此処まで引張りまわした女に、素直に幸福を与えてなるものか』そういって熊内中尉は歯を喰いしばったのだった。『ようし、見て居れ、竹花のやつを、地獄へひきずりこんでやるんだ。やつが、おれの計画に感付いたとき、どんな泣きッ面をするか。