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おそろしきつや
恐しき通夜
海野 十三
「新青年」1931(昭和6)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,092 字 · 30 页
自分の名をよばれると、流石の星宮理学士も、ギョッとして、その場に立ち竦んだ。
「星宮君。私の第三話が、もうすこしで、尻切れ蜻蛉になるところだった。幸い君は生命をとりとめたようだから、サアここへ坐って、あの話の続きを聞いてくれ給え」
軍医は、落着きはらって、空虚になった二つの椅子を指した。学士は、眼に見えぬ糸に操られるかのように、ヨロヨロとよろめきながら、やっとその椅子の傍まで近付くと、崩れるように、その上に腰を下ろした。
「……」
「さア、いいかね、星宮君。さっきは、僕に手術を頼んだ娘の次兄というのが、素晴らしい復讐方法を、妹をかどわかした男に加えるため、考えついた、というところまで話したのだったね。サアその続きだが、さて、あの女の次兄が考えだした讐打ちというのはね、死をも怖れないと自称する人間に『死』以上の恐怖を与えることにあったのだった。それで次兄は、今夜妹を人工流産させることに決心したのだ。手術は四十分ばかりかかったが、私の手で巧く終了した。摘出されたのは、すこし太い試験管の、約半分ばかりを占領している四ヶ月目の××××××だった。いいかね、その試験管の底に沈澱している胎児は、その男と、あの可憐なる少女とが、おのれの血と肉とを共に別けあって生長させた彼等の真実の子供なのだった。