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おそろしきつや
恐しき通夜
海野 十三
「新青年」1931(昭和6)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,092 字 · 30 页
と、ふり絞るような声をあげたのは星宮理学士だった。その顔面はみるみる真青になり、ガタガタと細かく全身を震わせると、われとわが咽喉のあたりを、両手で掻きむしるのだった。
ああ、時はもうすでに遅かった。いま気がついて、ムカムカと瀉き気を催しても、彼の喰った栄螺は、もはや半ば以上消化され、胃壁を通じて濁った血となったのだった。頸動脈を切断して、ドンドンその濁った血潮をかいだしても、かい出し尽せるものではなかった。彼の肉塊をいちいち引裂いて火の中に投じても、焼き尽せるものではなかった。彼は自己嫌悪の全身的な嘔吐と、極度の恐怖とを感ずると、
「ギャッ」
と一声、獣のような悲鳴をあげて、その場に卒倒したのだった。呪われたる人喰人種――。
×
それを見届けると、大蘆原軍医は始めて莞爾と笑って、側らに擦りよってくる紅子の手をとって、入口の扉の方にむかって歩きだした。
今宵、紅子は、彼女の良人、川波大尉を射殺して置きながら、それを振返ってみようともしないのは、どうしたことであるか。それは、川波大尉こそは、第一話に出て来た熊内中尉に、あの恐ろしい無理心中を使嗾した悪漢だった。