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あくまのもんしょう
悪魔の紋章
江戸川 乱歩
「日の出」新潮社、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 151,280 字 · 301 页
黒い怪物は、宗像博士が警官隊を呼ぶために電話をかけに行ったことも、又、小池助手の指図で、十人余りの小屋の者が、迷路の要所要所に、捜索の網の目を張っていることも、よく知っているに違いない。
だが、彼は少しも慌てている様子がない。さも自信ありげに、ゆっくりと歩いている。例のクックックッという幽かな笑い声さえ立てながら。
竹藪の向うのあちこちでは、捜索の人達がガサガサと物音を立てながら、右往左往しているのが、手に取るように聞える。竹の葉をかき分ける音が、前からも後からも、右からも左からも聞えて来る。黒い怪物は、今や四方から包囲された形だ。しかも、その包囲陣は徐々に彼の身辺に縮められているのだ。
怪物は、しかし、まだせせら笑っていた。冗談らしくピョイピョイと飛ぶような恰好をしたりして、暗の中を呑気らしく歩いていた。
角を曲ると、頭の上に白いものがぶら下っていた。例の首吊り女の幽霊である。
怪物はそれを見上げて、又クックックッとせせら笑った。黒布で包んだ顔の中から、二つの細い目が、何か陰気なけだものの目のように光っている。この黒い海坊主を見ては、幽霊の方で身震いするかも知れない。