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あくまのもんしょう
悪魔の紋章
江戸川 乱歩
「日の出」新潮社、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 151,280 字 · 301 页
別に重なり合ってはいない。しかし、ホラ、渦が三つもあるじゃありませんか」
「そういえば、なる程、妙な指紋らしいが、このままじゃ、よく見分けられませんね」
「拡大して見ましょう。こちらへ来て下さい」
博士は靴箆を持って、先に立って隣りの実験室へ入って行った。中村係長もそのあとにつづく。
十坪程の部屋である。一方の窓に面して大きな白木の化学実験台があり、その上に大小様々のガラス器具、顕微鏡などが置かれ、一方には夥しい瓶の並んだ薬品棚が立っている、化学実験室と調剤室とを一緒にしたような眺めだ。
又別の隅には、大型写真器、紫外線、赤外線、レントゲンの機械まで揃っている。それらの間に、黒い幻燈器械の箱が、頑丈な三脚にのせて置いてある。実物幻燈器械なのだ。これによって指紋は元より、あらゆる微細な品物を拡大して、スクリーン上に映し出すことが出来る。指紋は紙や板に捺されたものと限らない。ガラス瓶であろうが、ドアの把手であろうが、コップであろうが、ピストルであろうが、それらの実物の指紋の部分を、直ちに拡大して映写することが出来る。博士自慢の装置である。
中村捜査係長は、この部屋へは度々入ったことがあるのだが、入る度毎に、まるで警視庁の鑑識課をそのまま縮小したようだと感じないではいられなかった。