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あくまのもんしょう

悪魔の紋章

江戸川 乱歩

「日の出」新潮社、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 151,280 字 · 301 页

青空文庫

宗像博士は自身台所へ出向いて行って、そこにいる召使達に一人一人質問した。だが、いつの間に、誰がそんな指紋をつけたのか、まるで見当もつかなかった。念のために召使達残らずの指紋を取って見たけれど、無論三重の渦巻などは一つもなかった。

問題の茶碗は、昨夜すっかり拭き清めて茶箪笥に入れて置いたのを、今取出してそのまま応接室へ運んだというのだから、賊は昨夜の内に台所へ忍び込んで、茶箪笥をあけ、指紋を捺して逃げ去ったものとしか考えられなかった。しかし戸締りには少しも異状はなく、どこからどうして忍び込んだかということは、少しも分らなかった。屋外にも賊の足跡らしいものは全く発見されなかった。

「宗像さん、やはりお勧めに従って、一時この家を去ることにしましょう。臆病のようですが、こんなものを見せつけられてはもう一刻もここにいる気がしません。それに、この家にはなくなった娘達の思い出がこもっていて、いつまでも悲しみを忘れることが出来まいと思いますから、旁あなたのおっしゃるようにする決心をしました」

川手氏は遂に我を折った。三重渦巻のお化けの恐怖は、世間を知りつくした五十男を、まるで子供のように臆病にしてしまったのである。