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あくまのもんしょう
悪魔の紋章
江戸川 乱歩
「日の出」新潮社、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 151,280 字 · 301 页
幸い、日もとっぷりと暮れて、窓の外は真暗になっていた。冒険にはお誂え向きの時間である。
「ボツボツ、ブリッジへ出ていましょう。今に急勾配にさしかかりますから」
二人は何気なく、鞄を下げて、後部のブリッジへ忍び出た。幸い、車掌の姿もなく、こちらを注意している乗客も見当らなかった。
やがて、トンネルを知らせる短い汽笛が鳴り響くと、汽車の速度が目に見えて減じて行った。ボッボッボッという機関の音、黒煙に混って、火の粉が美しく空を飛んで行く。
「サア、ここです」
博士の声を合図に、二つのスーツ・ケースが闇の土手下へ投げ出された。つづいて博士の手が鉄棒を離れると見るや、まん丸な肉団となって、サーッと地上へ。印半纒の川手氏もおくれず、闇の中へ身を躍らせた。
線路の土手の草の上を、二つのスーツ・ケースと、二つの肉団とが、相前後して、コロコロと転がり落ち、下の畑に折り重なって倒れた。
暫らくして闇の中に低い声が聞えた。
「大丈夫ですか」
「大丈夫です。飛び降りなんて、存外訳のないものですね」
川手氏は数十年来経験せぬ冒険に、腕白小僧の少年時代を思い出したのか、ひどく上機嫌であった。