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あくまのもんしょう
悪魔の紋章
江戸川 乱歩
「日の出」新潮社、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 151,280 字 · 301 页
身体中の血液がスーッと引潮のように消えて行って、異様な寒さに、歯の根がガチガチ鳴り始めた。
「だ、誰か、誰か来てくれエ!」
土気色の顔、紫色の唇から、気違いのような絶叫がほとばしった。
「ハハハ……、駄目だ、駄目だ。君がいくら大きな声を出したって、ここは山の中の一軒家だぜ。鳥や獣物がびっくりして逃げ出すくらいのものだ。アア、君は爺や夫婦が、その声を聞きつけて、助けに来てくれると思っているんだね。フフフ……。
ところがね、川手君、それは飛んだ当て違いというものだぜ。もうこうなったら、何もかも云ってしまうが、あの婆やというのは、外でもない、今君が見た山本家の乳母だった女なのさ。つまり俺の味方なのだ。爺やの方も、夫婦であって見れば、まさか女房を裏切って、俺の邪魔立てをする筈もなかろうじゃないか。
ハハハ……、君は不思議そうな顔をしているね。あの爺や夫婦が俺の手下だとすると、そんなところへ、宗像先生が君を連れて来たのは、変だとでもいうのかね。ハハハ……、何も変な事はないさ。宗像大先生は、この俺のためにマンマと一杯食わされたという訳だよ。俺がちゃんとお膳立てして置いたところへ、先生の方で飛び込んで来たのさ。