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あくまのもんしょう

悪魔の紋章

江戸川 乱歩

「日の出」新潮社、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 151,280 字 · 301 页

青空文庫

「よし、お前、足の方を持つんだ。そして、棺の中へ納めてしまおう」

大男の指図に、小男は無言で川手氏の膝の辺に両手を廻し、力まかせに抱き上げた。

そうして宙を運ばれながら、生きた心地もない焦慮の中で、川手氏は不思議にはっきりと、ある異様な事柄を気附いていた。

というのは、黒眼鏡の小男が、どうも本当の男性ではないという事であった。膝に巻きついたネットリとしなやかな腕の感触、時々触れ合う胸の辺の肌触り、それに、小刻みな柔かい息遣いなどが、女としか思われないことであった。

だが、それは、慌しい心の隙間に、一瞬チラッと閃いたばかりで、やがて例の不気味な寝棺の中にドサッと抛り込まれてしまうと、もうそんなことを考えつづけている余裕などある筈もなかった。

「川手、俺はとうとう目的を達したんだ。俺がどんなに嬉しがっているか、君に想像がつくかね。四十年の恨みを、俺の父と母とのあの血みどろの妄執を、今こそはらすことが出来たのだ。

お父さん、お母さん、これを見て下さい。あなた方の敵は、今生きながら棺桶の中へとじこめられようとしているのです。あなた方のあの残酷な御最期にくらべては、これでもまだ足らないかも知れません。