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あくまのもんしょう
悪魔の紋章
江戸川 乱歩
「日の出」新潮社、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 151,280 字 · 301 页
事務所なども、明智の方は住宅兼用の書生流儀であったのに反して、宗像博士は、家庭生活と仕事とをハッキリ区別して、郊外の住宅から毎日研究室へ通い、博士夫人などは一度も研究室へ顔出しをしたことがなく、又研究室の二人の若い助手は、一度も博士の自宅を訪ねたことがないという、厳格極まるやり口であった。
丸の内の一郭、赤煉瓦貸事務所街のとある入口に、宗像研究室の真鍮看板が光っている。赤煉瓦建ての一階三室が博士の探偵事務所なのだ。
今、その事務所の石段を、這うようにして上って行く、一人の若い背広服の男がある。二十七八歳であろうか、その辺のサラリー・マンと別に変ったところも見えぬが、ただ異様なのは、トントンと駆け上るべき石段を、まるで爬虫類ででもあるように、ヨタヨタと這い上っていることである。急病でも起したのであろうか、顔色は土のように青ざめ、額から鼻の頭にかけて、脂汗が玉をなして吹き出している。
彼はハッハッと、さも苦しげな息を吐きながら、やっと石段を昇り、開いたままのドアを通って、階下の一室に辿りつくと、入口のガラス張りのドアに、身体をぶッつけるようにして、室内に転がり込んだ。