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あくまのもんしょう

悪魔の紋章

江戸川 乱歩

「日の出」新潮社、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 151,280 字 · 301 页

青空文庫

「僕が今考えているのは、無論偽名だとは思いますが、兎も角あいつの戸籍簿を調べて見ること、一枚でもあいつの写真を探し出すこと、それから荷物の送り先の三島駅の運送店に張込みをすることなどですが、そういう正攻法では、うまく行きそうもないような気がします。何だか今日の取調べには、不気味な気ちがいめいた匂いがつき纒っていたじゃありませんか」

中村警部が半ば独言のように呟いた。

「気違いめいているのは最初からですよ。殺人犯人が死体を衆人に見せびらかすなんて、正気の沙汰じゃありません。恐るべき狂人の犯罪です。狂気の分子は到る処にちらついています。しかし、犯罪にかけては天才のように正確無比な奴です」

博士は殺人鬼を讃嘆するように溜息をついた。

「今日のパンと罐詰の一件なんか、僕は何だかゾーッとしましたよ。ナンセンスのようでいて、実はその奥にえたいの知れない怪物の着想が隠されているような気がするのです」

「怪物の着想、そうです。僕もそんな風のものを感じます。例えばですね。君は三重渦巻の指紋の持主が女性、しかも美しい女性であったことを、どう考えますか。

この事件には最初から女性がいたのでしょうか、しかし、我々は眼帯の大男と、黒眼鏡の小男しか見ていないではありませんか。