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あくまのもんしょう

悪魔の紋章

江戸川 乱歩

「日の出」新潮社、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 151,280 字 · 301 页

青空文庫

「僕らは無断であの空家へ忍び込むのだからね。そのつもりで、通行人などに怪しまれないように」

博士は小声に注意を与えながら、足音も盗むようにして、空家の裏側の路地へ忍び込んで行く。細い路地には電燈もなく、全くの暗闇である。その闇の中を、手探りで、二人の洋服男が影のように忍んで行く有様は、若し第三者が見たならば、探偵どころか、恐るべき夜盗の類と早合点したことであろう。

空家の勝手口に辿りつくと、先に立った博士は、ポケットから鍵束のようなものを取出して、それをあれこれと戸の錠前に当てがっていたが、忽ち易々と錠をはずし、ソッと板戸を押し開いて、真暗な土間へ入って行った。

いよいよ夜盗である。博士は錠前破り専門の盗賊も及ばぬ巧みさで、空家の戸締りを開いたのだ。

「林君、ここで靴を脱ぐんだ。声を立ててはいけないよ。わしがいいというまでは、無言の行だ。いいかね、忘れても音を立てたり、声を出したりするんじゃないよ」

博士は暗闇の土間に立って、林助手の耳に口を寄せ、やっと聞える程の囁き声で命じた。

靴を脱いで、板の間に上り、手探りで、博士のあとについて行くと、博士は中の間と覚しき部屋で立止り、林助手の肩を押えて坐れという合図をして、自分も、その暗闇の中に胡坐をかいた。