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あくまのもんしょう

悪魔の紋章

江戸川 乱歩

「日の出」新潮社、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 151,280 字 · 301 页

青空文庫

そして、何という恐ろしい運命でしょう。そのわたしの外出していた日に限って、必ずあの殺人事件が起っているではありませんか。イイエ、外出と申しましても、よそのお家を訪ねたわけではありません。ただ何となく歩き廻ったのです。郊外だとか、時には鎌倉江の島など……」

「ハハハ……、益々辻褄が合わなくなって来た。そんな永い時間、一人で歩き廻る奴もないものだ」

「イイエ、一人ではありません。あの、お友達と……」

「エ、お友達? それじゃちゃんとアリバイがあるじゃないか。その友達を証人にすればいい筈じゃないか」

「でも、それが、……」

「それが?」

「それが、普通のお友達ではなかったのです」

「ウン、分った。君の家の婆やが云っていたが、君には男の友達があったそうだね。だが、そんな事を恥しがって、殺人の嫌疑を甘んじて受ける奴もないものだ。その男の友達に証言させればいいじゃないか」

「でも……」

「でも、どうしたんだね」

竜子はもう口が利けなくなった様子で、ワナワナと唇を震わせながら、烈しく泣きじゃくり始めた。泣き声を噛み殺そうとするのだが、そうすればする程、胸の奥から嗚咽がこみ上げ、涙はとめどもなく流れ落ちる。