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あくまのもんしょう
悪魔の紋章
江戸川 乱歩
「日の出」新潮社、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 151,280 字 · 301 页
「あいつだ。……三重の渦巻だ。……ここに証拠がある。……こいつが殺人鬼だ。アア、恐ろしい」
彼は歯を喰いしばって、もがき苦しみながら、右手に握った小さな紙包みを示した。
「よし、分った。この中に犯人の手掛りがあるんだな。しかし、そいつの名は?」
だが、木島は答えなかった。もう両眼の虹彩が上瞼に隠れてしまっていた。
「オイ、木島君、木島君、しっかりしろ、名だ。そいつの名を云うんだ」
いくら揺すぶっても、木島の身体は水母のように手応えがなかった。
可哀想に、宗像研究室の若き助手木島は、捜査事業の犠牲となって、遂に無残の最期をとげたのであった。
五分程すると、附近の医師が来診したが、最早や脈搏も鼓動も止った木島を、どうすることも出来なかった。
待ち兼ねた宗像博士が研究室に帰って来たのは、それから四十分程のちであった。
博士は見たところ四十五六歳、黒々とした頭髪を耳の辺で房のように縮らせ、ピンとはねた小さな口髭、学者臭く三角に刈った濃い顎髯、何物をも見透す鷲のように鋭い目には、黒鼈甲縁のロイド眼鏡をかけ、大柄なガッシリした身体を、折目正しい夏のモーニングに包んで、少し反り身になって、大股に歩を運ぶところ、如何にも帝政独逸時代の医学博士という趣きであった。