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あくまのもんしょう
悪魔の紋章
江戸川 乱歩
「日の出」新潮社、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 151,280 字 · 301 页
てしまった。
自動車を拾うと、博士はクッションに凭れたまま、じっと目を閉じて、一言も口を利かない。まるで木彫の像のように、呼吸さえしていないかと疑われるばかりだ。小池助手は、この不機嫌な先生を、どう扱っていいのか見当もつかなかった。ただ、気拙ずそうに、博士の横顔をチロチロと盗み見ながら、モジモジするばかりである。
ところが、自動車が事務所への道を半ば程も来た時である。博士は突然カッと目を見開き、
「オオ、そうかも知れない」
と独言をいったかと思うと、今まで青ざめていた顔に、サッと血の気がのぼって、目の色も俄かに生々と輝いて来た。
「オイ、運転手、元の場所へ引返すんだ。大急ぎだぞ」
博士はびっくりするような声で呶鳴った。
「何かお忘れものでも……」
小池助手がドギマギして訊ねる。
「ウン、忘れものだ。僕はたった一つ探し忘れた場所があったことに、今やっと気附いたんだ」
名探偵は、そういう間ももどかしげに、再び運転手を呶鳴りつけて、車の方向を変えさせた。
「それじゃ、あの賊の秘密の出入口がおわかりになったのですか」
「イヤ、賊は出もしなければ、入りもしなかったということを気附いたのさ。