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せんそういがくのおじょくにふれて
戦争医学の汚辱にふれて
平光 吾一
――生体解剖事件始末記――
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,206 字 · 24 页
石山教授の人物観
たゞ惜しむらくは、この手術に関する記録を全く残しておかなかったことである。第二次大戦中ドイツのブラントという博士は、石山氏と同じく捕虜に対する実験手術を行い、その助手と共に絞首刑に処せられたが、彼はその時の研究記録一切を残していた。そのため、戦後のドイツ外科医学は、それによって大いに向上したという例があるからである。また、古い話だが動脈の中には空気、静脈には血液が流れているという定説に対して、動脈にも血液が流れていることを発見して一六二八年に発表したイギリス人、ウィリアム・ハーヴェーも家畜の生体解剖から始めて、矢張り敵側の捕虜負傷者を戦争中に生体解剖したらしいのである。
医学の進歩は、その歴史を省みる時、このような戦争中の機会を利用してなされていることが多いのだ。生体解剖それ自体の行為は勿論許されるべきものではない。しかし、その許されざる手術を敢えて犯した勇気ある石山教授が、自殺前せめて一片の研究記録なりとも遺しておいてくれたら、医学の進歩にどれ程役立ったことだろうか。犠牲者の霊も幾分なりと浮ばれたであろう。
石山教授の人物観
余談に走ったが、ここで私は何故このような事件が九大医学部を舞台にして起ったかに話を進めようと思うが、その前に石山教授の人物に触れておきたい。