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せんそういがくのおじょくにふれて

戦争医学の汚辱にふれて

平光 吾一

――生体解剖事件始末記――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,206 字 · 24 页

青空文庫

九大事件の背景

石山教授が自殺したのは、昭和二十一年七月十六日の夜であった。そのころ事件関係者は全部福岡の土手町刑務所に入られていたが、彼はその一室で縊死したのである。服のポケットから皺くちゃの塵紙に鉛筆で書かれた遺書が発見された。おそらく自決当夜にしたゝめたものらしい。

一切は軍の命令 責任は余にあり 鳥巣森 森本 仙波 筒井 余の命令にて動く 願わくば速やかに釈放され度 十二時 平光君すまぬ(原文のまゝ)

遺書に誌された人名は石山氏の「手術」を補佐した彼の弟子と、看護婦(筒井)たちである。彼は全部の責任を自分が負う意志を示したが、米軍事法廷は遺書に証言の価値なしと断じた。そして、彼の遺志は無視され、却って他の連累者に彼の罪が配分される結果になってしまった。

ところで、遺書にある如く生体解剖の軍命令が石山教授の許にきたのは、どういうことからであろうか。日本の外科医は各地に数多くいる。にも拘らず九大医学部の第一外科部長が選ばれた、この点に事件の大きな背景があるのだ。

九大事件の背景

どんな出来事でも、時、所、勢という三要素を具えないものはない。生体解剖事件を省みる時、私は矢張りこの三要素が大きく支配していたことを痛感する。