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せんそういがくのおじょくにふれて

戦争医学の汚辱にふれて

平光 吾一

――生体解剖事件始末記――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,206 字 · 24 页

青空文庫

らしかった、というのは、この事件の主役として執刀した石山福次郎第一外科部長が、事件取調べ中に自決してしまったからである。死者に口なしである。その上残念なことには何一つの記録も残されなかった。また私自身、事件には連坐したものの、この手術に直接タッチしたわけではなかった。それ故、この手記はいわば、生体解剖事件傍役の弁ということになる。

日ははっきりと憶えていない。とにかく昭和二十年五月上旬、どんよりと重く曇った午後のことだった。

当時、九大医学部の解剖学主任教授をしていた私の研究室に、突然、石山教授から電話がかかってきた。石山氏から電話を受けたことの少かった私は、何事か、と思ってすぐ用向きを聞くと、彼は、西部軍の依頼命令で明日、米軍飛行士の捕虜負傷者を手術したいから、空いている大きい解剖室を貸してもらいたい、という。

「外科病棟の手術室を、何故使わないんだ?」

「いや、それには一寸わけがあってね。」

「しかし、きみ……」

電話は、私の声を待たずに切れてしまった。

私は奇異な感じを抱いたが、そこへ、ひょっこり当の石山氏がやってきた。真白い手術衣を着た彼は、度の強い近眼鏡の下で眼をパチパチさせ、部屋においてある私の標本を手にとっていじくりながら、低い声で言った。