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かいていごじょうほう
改訂御定法
山本 周五郎
「文藝朝日」朝日新聞社、1962(昭和37)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 29,422 字 · 58 页
直衛はたいてい負けて引くが、彼がしいて勝ちを取ろうとしないことはわかるとみえ、しかも、それで屈辱を感ずるというより、くみしやすいと思いこんだらしく、或るとき稽古の帰り、強引に直衛を酒席へさそった。直衛は四たびくらいまでつきあったが、それからあとはどんなにさそわれても断わった。――矢堂の酒はだらだらとながく、酔うと給仕の女にからんだり、諄くぐちを並べたりするうえに、どの店にも勘定を溜めているようすで、少しも酒がたのしくないばかりか、こっちまでがうらさびれた気持になるだけであった。
河本宗兵衛が玄蕃の名を口にしたとき、直衛はあとを聞かなかった。というのは、それより半月ほどまえ、城下の要屋喜四郎という商人が、借財不払いの件で矢堂を町奉行へ訴えた、ということを聞いたからである。一商人が藩士を訴えるなどということも、ゆきすぎた御定法の改新によるものだし、これまで同様の紛争で町奉行は幾たびも苦杯をなめてきた。いままたそんな事件が起こっても、おれの知ったことではないぞと直衛は思った。――ところがそうはいかなくなったのだ。河本家で佳奈と食事をしてからほんの二三日あと、朝起きた直衛が裏庭の井戸端で洗面していると、ふいに河本宗兵衛があらわれた。