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だんがいのさっかく
断崖の錯覚
黒木 舜平
「文化公論 第四巻第四号」1934(昭和9)年4月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,483 字 · 26 页
私は、これに依って、ひそかに私自身の大失敗をなぐさめられたいと念じていたのであった。昼に見た「いでゆ」の少女に対するこらえにこらえていた私の情熱が、その農家の娘に乗りうつり、われながら美事な物語ができたのである。私はいまでもそう信じているのであるが、あのようなロマンスは、おそらくは私が名前を借りたその新進作家ですら書けないほどの立派なできばえだったのである。
夜のしらじらと明けそめたころ、私はその青年と少女とのつつましい結婚式の描写を書き了えた。私は奇しきよろこびを感じつつ、冷たい寝床へもぐり込んだ。
眼がさめると、すでに午後であった。日は高くあがっていて、凧の唸りがいくつも聞えた。私はむっくり起きて、前夜の原稿を読み直した。やはり傑作であった。私はこの原稿が、いますぐにでも大雑誌に売れるような気がした。その新進作家が、この一作によって、いよいよ文運がさかんになるぞと考えたのである。
もはや私にとって、なんの恐ろしいこともない。私は輝かしき新進作家である。私は、からだじゅうにむくむくと自信の満ちて来るのを覚えた。
その日の夕方、私は二度目の「いでゆ」