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だんがいのさっかく
断崖の錯覚
黒木 舜平
「文化公論 第四巻第四号」1934(昭和9)年4月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,483 字 · 26 页
八
あなた、私を、みだらな女だと思って。」
変に真面目な口調だった。
「それあ、判らん。」
私は意地わるくそう答えて、せせら笑った。
「ええ、みだらな女よ。みだらな女よ。」
雪はひくくそう呟いてから、ふと立ちどまって泣きだした。「どうせ、私は。でも、でも、たった一度、うん、たった二度よ。」
私はわれを忘れて雪を抱きしめた。
八
その謂わば秘密の入口から、私はまだ泣きじゃくっている雪をかかえて、こっそりと私の部屋へはいった。
「静かにしようよ。他に聞えると大変だ。」
私は雪を坐らせて、なだめた。酔は、まったく醒めていた。
雪の泣きはらした眼には、電燈の明るい光がまぶしいらしく、顔からちょっと手を離したが、またすぐひたと両手で顔を被った。
寒さに赤くかじかんだ手の蔭から囁いた。
「私を軽蔑して?」
「いや!」私もむきになって答えた。「尊敬する。君は、神さまみたいだ。」
「うそよ。」
「ほんとうだ。僕は君みたいな女が欲しくて、小説を書いてるのだよ。僕は、ゆうべ初恋の記という小説を書いたけれど、これは、君をモデルにして書いたのだ。僕の理想の女性だ。読んでみないか。」
私は机のうえの原稿をとりあげて、どたりと雪の方へなげてやった。