轻读日语

轻松读懂日语经典作品

ja-reading.com

轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。

だんがいのさっかく

断崖の錯覚

黒木 舜平

「文化公論 第四巻第四号」1934(昭和9)年4月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,483 字 · 26 页

青空文庫

私たちは、いつまでもそうして歩いていたかった。雪は旅館の裏山へ私を誘った。私も、よろこんでついて行った。くねくね曲った山路をならんでのぼりながら、雪は、なにかの話のついでに、とつぜん或る新進作家の名前で私を高く呼んだ。私は、どきんと胸打たれた。雪の愛している男は私ではない。或る新進作家だったのだ。私は目の前の幸福が、がらがらと音をたてて崩れて行くのを感じたのである。ここで私は、すべてを告白してしまったら、よかったのである。すくなくとも雪を殺さずにすんだのかも知れない。しかし、それができなかった。そんな恥かしいことは死ぬるともできなかった。私はおのれの顔が蒼ざめて行くのを、自身ではっきり意識した。

雪も流石に、私のそんなうち沈んだ様子に不審をいだいたらしかった。

「どうなすったの? 私、判るわ。いやになったのねえ。あなたの花物語という小説に、こんな言葉があったわねえ。一目見て死ぬほど惚れて、二度目には顔を見るさえいやになる、そんな情熱こそはほんとうに高雅な情熱だって書かれていたわねえ。判ったわよ。」

「いや、あれは、くだらん言葉だ。」

私は、あくまでも、その新進作家をよそわねばならなかった。